私がいるから泣かないで




寒い

暗い

……一人は……寂しい…

「ったく…」

真っ暗な部屋の中。かすかにまどろんでいただけの斑は、聞きなれた声にやれやれと顔を上げた。

「また、視ているのか」

こんもりと盛り上がった布団の中では、苦しげに息を詰めてうなされる人間の子供がいる。

「昔の嫌な思い出など、とっとと消し去ってしまえばいいものを」

依代の短い手で張り付いた前髪を拭ってやれば、微かににじむ涙が月の光に晒される。言葉にならない呟きもこうして触れれば直接斑の中に流れ込んでくる。

―――寂しい 暗い 怖い

――― 一人は…嫌…

「…餓鬼が」

親を亡くしてから親戚中を転々としていたというこの子供は、人に甘えるという事を知らずに育ってしまった。だからだろう、誰に対しても間に壁を置くような態度はさらに人を遠ざけてしまうという事に長いこと気づきもしなかった。

「嫌ならそう言えば良かったんだ。傍にいろと、なぜそれが言えなかった」

もぞもぞと布団に潜り込んで薄い胸にしがみついてやる。すると、苦し気だった呼吸は次第に落ち着いたものになり、やがてスースーという心地よい音となった。

「もう寂しくはないだろう? この私が添い寝してやっているんだからな」

どうせ、目を覚ませばこの子供は叫び声を上げて鉄拳を振るうだろう。寝ぼけるなと怒り狂って飯抜きを言い渡すのだ。
だが、斑はもう気づいている。

意識が無いながらも、その身に回された手が柔らかな毛並みをいとおしそうに撫でる事を。

微かに綻んだ口元から己の名が呟かれることを。

「嫌な夢は全部忘れろ。私がついていてやる」

だから一緒に眠ってやるのだ。もう一人で膝を抱え震えなくても良いように。

「おやすみ。今度こそ良い夢を」

まるで本物の猫がするように鼻先をすりつけて、斑は目を閉じた。

 

いままで必要と思ったことの無い、暖かな腕につつまれながら―――。



なんだかんだ言いながら夏目の布団で寝てるニャンコ先生。
きっと互いに添い寝したいけど言い出せないに違いない







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